エレンディラ(ガブリエル.ガルシア=マルケス著)
南米コロンビアを舞台とした短編集で、「大人のための残酷な童話」として書かれた本書。
「幻想的で奇妙なモチーフ」「匂ってくるよう南米風土の描写」がとても強烈で、インパクトのある一冊でした。
■幻想的で奇妙なモチーフ
どの短編にも、超現実的な奇妙かつ癖のあるキャラクターやモチーフが登場し、周囲の人々を魅了する話もあれば、罰を受ける話もあります。
各短編集のモチーフを具体的に書き連ねると、ざっくり以下の通りです。
・大きな翼の生えているみすぼらしい老人
・薔薇の匂いを放つ海
・美しさで魅了する水死体
・死亡時期が見えている上院議員
・幻の幽霊船
・奇跡をうたうインチキ行商人
・緑色の血を流す残酷な祖母と、その美しい孫娘
どんな話が始まって、どんな結末を迎えるのか、全く想像がつかないようなモチーフで読んでいて展開が分からず、先が気になる短編集となっています。
ただ、「大人のための残酷な童話」とうたわれているだけあり、残酷な描写・ストーリーだったり、一度読んだだけでは伝えたいことが難解なシーンも散見されたように感じます。
正直意図が不明な描写も多かったですが、その意図不明でシュールな部分も含めて本書の特徴なのかと思われます。(読み込み・理解が不足している可能性もありますが。。)
本書について、個人的には、サルバドール・ダリの絵画のようなシュールな印象を、感覚的に受けました。
■匂ってくるような南米の描写
今まで南米については、カラフルな街並みで明るい陽射しで陽気な国といったイメージを勝手に持っていましたが、そのイメージが覆されました。
本書では多雨でじめじめしてぬかるんだ、寒々しい陰気な南米の一面が描かれています。(前半の短編ではほとんど、そのような描写です)
その描写が鮮烈であったため、物語を読んでいても終始暗くて寒いイメージが頭にこびりついていました。
本書の冒頭の描写を引用します。
雨が降り出して三日目、家のなかで殺した蟹の山のような死骸の始末に困って、ベラーヨは水びたしの中庭を越え、浜へ捨てに出かけた。
昨晩、赤ん坊が夜っぴて高熱に苦しんだが、その悪臭が原因だと思われたからだ。火曜日から陰気な毎日が続いている。
空も海も灰のひと色、三月になれば火の粉のようにきらきら光る砂の海岸までが、腐った貝混じりの泥のスープに成り下がっていた。
「蟹の山のような死骸」という普段あまり目にしない風景描写からは、気味の悪さ、やるせなさ、行き詰まりといった空気感さえ感じ、匂いさえ感じるような本書の空気感の描写は、この絶妙な単語選び・文章の美しさによるものかと思いました。
■おすすめ度
★★★★☆
(独特な文体かつメッセージが難解であるため好みは分かれるとは思いますが、異色な文体に触れてみたい人、ブラックユーモアが好きな人、ダリの絵のようなシュールかつ超現実的な描写が好きな人にはおすすめです)